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再会の贈り物 ~お嬢様の、とある聖夜~

「こんなときに本なんて……ってお声もあるかもしれませんけど、こんなときだからこそですわよね。特にあちらは、ちょうどクリスマスが定着し始めた頃のはずですし」
 

 喋りつつ、忘れずに手も動かし続ける。イメージとしては肩に担ぐ布袋が定番だが、ものがものなのできちんと梱包材に包み、クッション入りのプレゼントボックスで届けることにした。書店員たるもの汚破損は極力避けねばならない。
 

「そうだねぇ。新聞社がサンタのイラスト広告を出したり、有名なお菓子屋さんがケーキを販売したりし始めたのも、あれぐらいの頃かららしいよぉ」
 

〝知恵の実〟がなる林檎の木だからか、隣に立つポム・トントンが詳しく教えてくれる。
 

「もう片方は心配いりませんわね。夏の経験から考えるに、同じか、少なくとも似たようなお祭りが絶対にあることでしょう」
「うん。やっぱりなんらかの形で、こっちと繋がってるんだろうねぇ」

 

 相づちを打つポムの方も、腕の動きはずっと止まっていない。

 十二月二十四日の夜。成田本店(なりたほんてん)の看板娘&マスコットたる自分たちが、つくだ店二階の外商センターでいそいそと荷造りしているのにはわけがある。厳しい環境に置かれた子どもたちへ本を届けるチャリティ活動、『ブックサンタ』に我らが「なりほん」も今年からいよいよ参加することとなったのだ。
 なかでも私たちが託されたのは、「なりほんにしかできないブックサンタ活動」。というわけで、その特別任務のため、こうしてポムとともに準備にいそしんでいるのだった。

 

「喜んでくれるといいねぇ」
「きっと大丈夫ですわ。あの方々なら」

 

 ポムに頷いてみせたところで、任務に携わるもう一人の仲間、フクロウのナリホーが慌ただしく周囲を飛び回った。「早くしないと日付が変わっちゃうよ!」とばかりに。
 

「ご安心なさって。せっかくのリアル・ブックサンタですもの、決して遅れたりなんてしませんわ。……これで最後、っと」
 

 笑顔でナリホーを安心させ、言葉通り最後の書籍も無事に梱包終了。ポムもほぼ同時に担当分を終えたらしく、「こっちもできたよぉ」と得意げな顔を向けてくる。
 

「お待たせしましたわね、ナリホー。では、お願いできまして?」
 

 近くの棚で止まったナリホーに、あらためて声をかける。最後にもう一度、みずからの出で立ちも確認して。革製のブーツと長手袋。そしてケープ付きの赤いワンピース。合わせて頭のリボンも特別仕様にしたし、メイクだって普段以上に入念に行った。準備万端だ。
 

「OK。まいりますわよ、ポム」
「了解ぃ」

 

 自分と同様、クリスマス仕様でツリーに扮しているポムと手を繋ぐ。そして反対の手をナリホーへ。
 ナリホーの頭の林檎に触れることで開く、異世界や過去・未来への扉。逆に向こうからお客様がいらっしゃる際は別のトリガーがあるようだが、いずれにせよこの扉によって、自分たちは様々な世界に何度もお邪魔させてもらってきた。たくさんの心温まる出逢いとともに。ちなみに今日は、ナリホーも肝心の林檎が大きな星になっているけれど、発動条件はもちろん変わらない。
 星に触れ、写真でしか見たことのない、とある場所を心に思い浮かべる。
 刹那。お馴染みの光が部屋一杯に広がった。

「あれ? お嬢様!? お嬢様じゃないですか!」
 

 光の扉を抜けてわずか二、三秒で、目的の人物の方がこちらを見つけてくれた。小さなかがり火が照らすだけの暗さに目を慣らしつつ、にっこりと再会の挨拶を送る。
 

「お久しぶりですわ、善三郎(ぜんざぶろう)さん。あ、こちらは同僚のポムとナリホーと申します。人ではありませんけど、どうかびっくりなさらないでくださいな」
「あはは。今さら驚きませんよ、お嬢様がらみの出来事には。こんばんは、ポムさん、ナリホーさん」

 

 ほがらかな笑顔に確信する。察してらっしゃるのね、と。彼にとって私たちは、遥かな時を隔てた子どものような存在なのだという事実を。それでも変わらずに「お嬢様」と呼び、敬語も崩さずにいてくれるのが嬉しい。創業者、成田善三郎がこういう人だからこそ、私たち成田本店は百年以上にも渡って暖簾を守り続けてこられたのだ。
 

「こたびの火災、心よりお見舞い申し上げます。せっかくお店を開いたばかりだったのに、残念でしたわね」
「いえ、お陰様で身体は無事ですから。それに焼け出されたあとすぐ、お嬢様の言葉を思い出したんです。店に何か不幸や不運があったとしても、決してくじけるなっていう、あのひとことを。だから僕自身は全然平気です。その節は心強いお言葉を、どうもありがとうございました」

 

 さすがに出逢ったときのトンビコート姿ではなく、ボロボロのどてらと手袋、頭には手ぬぐいという姿で善三郎さんは頭を下げ返してくれる。
 一九一〇(明治四十三)年、十二月二十四日の青森県師範学校。ここは同じ年の五月三日に起きた大火事、後に言うところの『青森大火』による類焼をまぬがれ、その避難所の一つとなっているのだった。
 地域を愛する善三郎さんのこと、自身も被災者だというのに、きっと近所の師範学校あたりで災害ボランティアをしているのではないだろうか。そう思ったからこそ、念じて会いにきたのだ。本を届けるために。

 

「こちら、差し入れというわけじゃありませんけど、よろしければ避難所のお子さん方のためにお使いくださいな」
 

 抱えてきたボックスをいくつか差し出すと、善三郎さんは自身こそが子どものように目を輝かせてくれた。
 

「子どもたちに? ありがとうございます! 開けてもいいですか?」
「もちろんですわ」
「……うわあ! すごく綺麗な絵本じゃないですか! それもこんなに!」

 

 そこで彼は、今さらながらに思い出したようだった。
 

「あ、そうか! 今日はクリスマスの日か! だから皆さん、こういう格好をされてるんですね」
「ええ」
「嬉しいなあ。子どもたちのためにクリスマスプレゼントをいただけるなんて、都会の人になった気分だ。お嬢様、本当にありがとうございます!」
「いえいえ。大変でしょうけど、負けずに頑張ってくださいな。子どもたちにも〝新しいきらめき〟がたくさん届くよう祈ってますわ」
「はい!」

 

 本を届けたい場所がもう一箇所あるので、残念ながら長居するわけにはいかない。「では、また」と軽やかに手を振りふたたびナリホーの星に触れる。
 次の場所を心に念じると、すぐに光の扉へと吸い込まれた。

 願い通り、いつぞやの広場にふわりと降り立つことができた。やはり前回と同じく何かのお祭りが開かれているようで、善三郎さんのところとは違う煌々としたかがり火のもと、そこかしこに屋台が出店している。右手に見える教会も変わっていない。
 中世ヨーロッパに似たファンタジー世界、『王国』。ここで会いたいのは――。

 

「お嬢様! ポムさんとナリホーさんも!」
「こんばんは、なるとちゃん。案の定、呼ばれてましたわね」

 

 今年の夏、『王国』での夏祭りを一緒に楽しんだ常連客の小学生、成島智(なるしま とも)ちゃんが嬉しそうに駆け寄ってくる。予想通りだ。
 夏祭り『ネ・ブータ』を通じて現地の精霊様と縁を紡いだ彼女ならば、ナリホーの助けを借りずとも、何かの折にまた呼ばれることがあるのではと推測したのだった。かつて私たちの店が、善三郎さんを呼び寄せたように。

 

「はい。あのときとおんなじ光に包まれて、気づいたら来ちゃってました。前に会ったエルフのお姉さんとかに聞いたら、今日明日は聖者様の降誕祭だそうです」
「聖者様の降誕祭。なるほど、そういうふうになるのですわね」
「はい! どう見ても私たちの世界で言う、サンタさんとクリスマスです!」

 

 楽しそうに笑うなるとちゃんの視線の先には、たしかに飾り立てたもみの木や、なんと本物のトナカイが引くそりなども見える。
 

「じつは、なるとちゃんにお手伝いしていただきたいことがありますの。夏にお邪魔したとき、あちらの教会のシスターさんが、孤児院も運営してらっしゃると仰ってたので」
「あ! ブックサンタですか?」

 

 話が早くて助かる。可愛いだけでなく、とても利発な子なのだ。自分とお揃いのような赤いウールコートもよく似合っている。
「ええ」と頷き、にこにこ顔の彼女とともにさっそく教会へ向こうことにした。

 

「おお、ネ・ブータのときの嬢ちゃんたちじゃねえか! 久しぶり!」
「あらまあ! 聖者様の仮装、とっても素敵じゃない!」

 

 顔を覚えてくれていた獣人や屋台のおばちゃんに挨拶を返しながら、なるとちゃんにもいくつか任せてプレゼントボックスを運ぶ。教会に近づくと、なかからシスターと子どもたちの笑い声が漏れ聞こえてきた。窓には温かな光も灯っている。
 

「……ところで、こちらではなんてコールすればよろしいのかしら。降誕祭の他の呼び方、ご存知でして?」
「いえ。でもいいんじゃないですか、そこは私たち流で」
「ふふ、たしかにそうですわね。ではまいりましょう」

 

 扉をノックし、「はーい」というシスターの返事に合わせて木戸を引き開ける。目一杯の祝福とともに。
 

「メリークリスマスですわー!」「メリークリスマス!」
 

 わあっという歓声と、きらめくいくつもの笑顔が出迎えてくれた。

 

 

                              

 Fin.
 

※ この物語はフィクションであり、本文中の表現等はすべて作者の責によるものです。

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© Lamine Mukae

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